フジツボ

フジツボの殻

フジツボの殻

5月の連休は東京を離れ、瀬戸内の島にしばらく滞在していました。潮が引いた海岸の潮溜まりを散策するのが、子供の頃からの楽しみでした。以前にも国境のことについて、このブログで触れましたが、何かと何かの境界を観察することは面白い、多様性や活動的な何かを見つけることができるからです。波打ち際の潮溜まりもその一つです。
この写真は、波打ち際の岸壁なら、どこにでもみられる「フジツボ」の抜け殻を採取してきたものです。ちなみに「フジツボ」は貝やイソギンチャクの仲間と思われがちですが、実はエビやカニと同じ甲殻類の仲間です。
このフジツボが群生している風景をみて、なんだか典型的なボロノイ領域を形成しているじゃないかと思い、meenaxydesignの形のコレクションとして抜け殻の一部を採取してきました。
ボロノイ図とは簡単に説明すると(詳しい数学の定義はさておき、、、)、点が複数個ちらばっているとして、どの点が最も近いかによって、領域を分割してできるのが、ボロノイ図です。それぞれの点がお互いに近い点を勢力圏として囲い込むようにしてできる図形です。
いわゆる「なわばり」の様相を表した図形で、自然界に多くみられる図です。このフジツボの領域もほぼボロノイ図になっているます。そのほか自然界にみられるのは、蜂の巣、結晶構造、細かい石けんの泡などなどいろいろみられます。また勢力圏ということで、施設の最適配置の検討に応用されたりもしています。
あまり言葉でボロノイ図の定義を書いてもピントこないかもしれないので、「Processing」のスケッチがあるので、実際に触ってみてボロノイ図の様子をみることができるので試してください。

voronoi_processing
Java appletへリンク
『voronoicones taken from http://processinghacks.com/hacks:voronoicones @author Tom Carden』

さてさて、最近この図形をデザインモチーフとしても、しばしば目にする機会があるので、この図形で遊んでみようと思いました。grasshopperのcomponentの一つにボロノイ図を生成するものがあるので、すごく簡単なdefinitionを作ってみました。

voronoi_step1_640
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フジツボの幼生がランダムに定着するイメージです。実際は同時に定着して「よーいスタート」と成長するわけではないですが、ここはちょっと簡単にということで、XY平面にランダムに点をちらばらせました。それぞれの点の勢力圏を円で表しています。この画面ではまだほとんどの点の勢力圏は競合していません。

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勢力圏を示す円のパラメーターの数値をあげていくと、所々にボロノイ図が現れてきました。

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もう少しパラメーターの数値をあげていくと、すべての点同士の勢力領域が確定して、もうこれ以上成長しない定常状態になり、全体的にボロノイ図ができました。
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境界線に高さを与えて、どんな様子か見てみます。fujitubo_640
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それぞれの領域の点をもとに、「フジツボ」ぽい形を生成してみます。
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少し手を加えて、attractor pointを追加してみました。attractor pointの近くのフジツボが餌を求めて競ってニョキッっと出てきた感じです。(緑色の球体が餌っぽいイメージ)
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bakeしてレンダリングしたイメージ。何となくどこかの集落の風景にもみえます。これも一見複雑で多様な形態も、単純な生成原理でできている一例かなとも思います。

参考図書
『なわばりの数理モデル』杉原厚吉著 共立出版
サブタイトルが「ボロノイ図からの数理工学入門」なのでボロノイ図の入門書としておすすめです。大学の教養課程の教科書レベル。